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BLUE SKY-青空に恋い焦がれる国際配達員の記録

――青空は私達が手を伸ばしても届かないけれど見上げることはできる。獰猛で活発に暴れ回る『モンスター』と呼んでいる生物がいる世界で、国から国へと郵便物や物資を送り届ける、命知らずの『国際配達員』達の物語。

ハロウィン

「「はろうぃん?」」
 藍色の髪と瞳を持つ見た目がそっくりな男の子と女の子は二人揃って首を傾げた。
「ええ、何でも『モンスターの仮装をして秋の収穫を祝って悪い霊を驚かせて追い出す』んですって。物語の中で出てくるお祭りなんだけどね。ジェンナ、ジェンド、これよ」
 金髪の若い女性はテーブルに一冊の本を開いて子供達に見せた。挿絵には怖い仮装をしている絵が描かれている。
「これって、ママがいつも読み聞かせてくれた本だよね?」
 男の子が挿絵を覗き込むように見ながらママと呼ばれた金髪の若い女性に話しかける。
「でも、私達もモンスターと似たようなモノじゃない?」
 男の子と同じように挿絵を見ながら女の子が言う。
「ドラゴンをモンスターと一緒にするんじゃありません!」
「ハルナ、いいんだよ」
 かけられた声の方向を見れば、子供達と同じ藍色の髪と瞳をした青年が玄関に立っている。青年は獲物であろう鹿の死骸を掴んで苦く笑っていた。
「ジェット!」
「「パパ! おかえりー‼」」
 子供達がパパと呼ばれた青年に抱きつく。青年は鹿の死骸を持っている手とは逆の手で子供達の頭を交互に撫でた。
「ただいま。ハルナも知ってるだろう? 僕達、ドラゴンはモンスターではないが、見た目が怖いからね。人間達にとっては僕達もモンスターと変わらないんだよ」  
 
 
 バンッ!  
 
 
 三人は目を丸くして驚く。両手でテーブルを勢い良く叩きつけて立ち上がるハルナに気圧されたのだ。
「そんなことない! 少なくとも、貴方達にはそう思って欲しくない!」
 ハルナが顔を上げると、目が潤んで今にも泣きそうだった。
「「「ご、ごめんなさい……」」」
 唯一の理解者であり、唯一の大切な人の怒りと悲しみに触れ、父子は揃って謝罪する他なかったのだ。  
 
 
 ◆ ◆ ◆  
 
 
「はろうぃん? あぁ。ハルナが好きな物語のか」
 あれから、宥めに宥めてハルナの機嫌を回復させた父子は、ハルナの得意料理である鹿肉のデミグラスシチューを晩御飯に食べていた。
「そう。ジェット、覚えていてくれたんだ」
「まぁね。でもさ、変わった話だよね。ガルおじさん曰く、この世界でのその役目は本来なら僕達ドラゴンらしいよ」
「え? そうなの⁉」
「父ちゃん、それ本当か⁉」
 双子の弟であるジェンドは時折『パパ』『ママ』ではなく『父ちゃん』『母ちゃん』と呼ぶことがある。
「ああ。今日、狩りの最中にバッタリ会ったんだけど、ハルナが好きな物語を知っているガルおじさんが教えてくれたんだ。でも、今じゃ個体数も減っていて役目を果たせそうにないらしい。モンスターが獰猛で凶暴化したのもそのせいかもって。詳しい因果関係はわかっていないらしいけど」
 ジェットはガルおじさんが語った話を思い出しながら、みんなに語る。

『本来なら強いドラゴンだが、人間達が自然を守り、ドラゴンを敬うことで更に強くなることができる。だが、自然を壊そうとし、ドラゴンを恐れた人間達。獰猛で凶暴化したモンスターがドラゴンの子供を狙い、元々繁殖力が強くないドラゴン達は徐々に数を減らしていったのは間違いないだろう。天敵が数を減らしたことでモンスター共は益々獰猛で凶暴化していく。凶暴化する要因の一つに【悪い心で汚れた魂を喰らった】のではないか。それがオレらの見解だな』

 ジェットは「『オレら』? 他のドラゴンも同じ見解なんですか?」と聞いたが、「オレと同じかオレよりも古くからいるドラゴンだ。近いうちに会うだろう」と言われただけで答えてくれなかったことも思い出していた。
「へぇ、そうなの」
「でも、私達は魂なんて見えないよ?」
「僕も!」
「僕は一応見える。大人のドラゴンは見えるからね。でも、見てもいいものじゃないからなぁ。そうだ。ガルおじさんが良い物をくれたんだよ。晩御飯を食べ終わったら見せるね」  
 
 
「ねぇ、ジェット。良い物ってこれ?」
 ハルナとジェンナは魔女の格好、ジェットとジェンドは吸血鬼(ドラキュラ)の格好をしていた。
「そうだよ。ガルおじさんに会った時にね、ガルおじさんの知り合いのドラゴンが一緒にいたんだ。知り合いのドラゴン曰く、上司である女ドラゴンが、ハルナと同じように物語を読むのが好きらしくて。で、物語に登場する人物の衣装を作ったはいいんだけど、他のドラゴンに着せようにも皆『興味ない』って着てくれないんだって。ガルおじさんにも要らんと言われて『貰い手がいない』って知り合いのドラゴンが困っていたから貰って来たよ。楽しそうでしょ? そうそう。せっかくだから、製作者である女ドラゴンが遊びに来たいって言うから招待したよ。もうすぐで来るんじゃないかな。皆で出迎えてあげよう」
「「はーい」」
「ジェット、こういう大事なことは、もう少し早く言ってくれないかな?」
 ハルナはジェットに呆れたような顔を向ける。
「あはは……ごめんね」
 ジェットは苦笑いでハルナの頭を撫でて謝る。
「いいけど……もぅ。仕方がないなぁ」
 こうなると、ハルナは強く言えなくなってしまうのだ。

「あ。誰か来たみたいだよ!」
 玄関のドアが数回ノックされたので、ジェンドがジェットに声をかけると、ジェットはドアに近づいていき、ドアについている覗き窓から来客を確認した。

「来たみたいだね。ようこそ」
 事前に聞いていた特徴と一致していたので、ドアを開けて来客を招き入れるジェットに。
「やぁ。招待されてやってきたよ。私はエリザリアと言う。エリザと気軽に呼んでくれ」
 20代くらいに見える緑色の髪と金の瞳を持つ若い女性が笑顔で家に入って来た。

「さて。物語では何と言うのだったかな?」
 家族は顔を見合わせて、にっこりと微笑むと。  
 
 
「せーの!「「「トリックオアトリート!!」」」」  
 
 
 その後、エリザリアが、ガルおじさんと同じかそれよりも長く生きるドラゴンで、しかも初代『国際配達員』だと知り、家族一同かなり驚くのだった。